つい最近のことである。
とてもがっかりした出来事が起こった。
数年前から、某有名一流企業に勤める若者二人と縁があって仲良くさせてもらっている。
彼らは、会社員である傍ら自分達の夢を実現させるべく会社を設立した。
それは、俗に言う二足のわらじであった。
彼らはその設立した会社が軌道に乗れば、会社員を辞めて事業に専念するつもりでいた。
実は私が彼らからその話を聞いた時、少々の違和感があった。
なぜなら、私は仕事でもプライベートでも常に「選択と集中」を繰り返しながら生きてきた人間であるからだ。
私の中には二足のわらじという選択肢は存在しない。
辞めるか辞めないか、生きるか死ぬか、A子かB子か、どちらかを選択し集中するのみだ。
そんな中途半端なことをしても成功する訳がない。
そういう性分の人間だからだ。
君たちに事業を成し遂げる覚悟がどこにあるのか?
事業とは「ごっこ」で成功するほど甘いものではない、と朝まで説教をたれまくりたかったというのが、私の本音なのだ。
よって、この若者達の事業は成功するはずがない、というのが私の見解だった。
しかし私の心の中のどこかには、成功してほしいという期待が存在したことも付け加えておきたい。
いい意味でも悪い意味でも、私の期待を裏切って欲しいという思いが、心のどこかにあったことを否定するつもりはさらさらない。
私は、事あるごとに彼らと交流を続けていた。
それは、彼らに対する大いなる期待であり、私の論理の証明でもあり、興味でもあった。
その後、彼らは今まで2度事業を失敗しながらも方向転換しながら事業を営んでいた。
そして、その度に彼らは私の予想に反して、大きな志や夢を口にする。
その言葉に圧倒されることもしばしばあった。
もしかしたら、彼らはやってくれるのかもしれない。
いや、やって欲しい、やってくれという淡い期待があったのだった。
そして数年の時が流れた。
数日前、彼らから連絡があり、近況を報告したいとのことだった。
開口一番、会社を閉めることにした、とのことである。
資金繰りが回らなくなり、これ以上続けられなくなったというのが大きな理由だという。
残った借金は会社員の給料でコツコツ返済していくという。
彼らが事業に失敗し、会社を閉めることになった本当の理由を聞くことは無かったし、聞いたところでどうなることでもないのは分かっていた。
ただ数カ月前には、自分達の事業や夢について熱く語っていた彼らの「勢い」がどこかに消えてしまっていたことが残念であり寂しくもあり歯がゆくもある自分がいた。
なので私は彼らに言いたかった。
「会社員をやりながら会社を経営することなんて最初から無理だったのさ。
会社を経営するなら、きっぱりと会社員を辞めて全身全霊打ち込むべきで、そんな中途半端な状態で成功するほど甘くはないんだよ」と。
喉元まで出そうになるのをぐっとこらえることしかできなかった。
そして、私は彼らにこうも言いたかった。
「諦めるのが早すぎるんじゃないか?」
ダメなら会社員として生きていけばいい。
そんな甘えがあったのではなかろうか?いや、あったに違い無い。
私は彼らの敗因について、勝手にこう分析している。
もし彼らが会社員を辞めて全身全霊事業に専念していたら成功していたのだろうか?
だとしてもYesとは言えない。
年間約10万の会社が登記され、約1万の会社が倒産するという。
倒産しないまでも、休業や廃業に追い込まれる会社は3万にも及ぶという厳しい世界なのだ。
彼らの決断を非難する理由はどこにもないし、彼らの下した答えが最善の判断であったのだと、考えるしかないだろう。
会社を経営していくことの厳しさを本当に知っているからこそ、私ごときがとやかく言うことではないのだ。